――ビーーーーー!!

「これは、テクニカルファウルでいいの?」
「……いーんじゃない」
生真面目にが笛を吹いて聞いてくるので、は尚更いたたまれなくなった。

(バカ桜木!恥ずかしい真似してんじゃねーよ!)



15.これはテクニカルファウルですか?




「それでは……ティップ・オフ!」

の放ったトスボールに、両キャプテンが喰らいついた。
ジャンプはほぼ互角。湘北ボールにはなったが、陵南キャプテンの魚住の気合は十分、と言った感じだった。
あっさり安田がカットされ、陵南ボールになってしまう。
リードとして湘北側のローポストに行きかけたは慌ててセンターラインに走った。
今度はトレイルを行うためだ。
ボールが例の「センドー」という選手に渡り、会場が騒然となる。
流川もすかさず仙道のマークにつくが、仙道はすぐさま味方にパスを出し、パスされた人はそのまま決めた。
次は湘北ボールからなので、は再びリードだ。
陵南が守りを固めるゴールのエンドラインへと走りこむ。
湘北は赤木からノーマークの木暮へとパスが渡る。
木暮は危なげなくシュートを行った。
しかし、

「させるか!」

魚住がすかさずブロックした。

(すげー気迫。ビビって笛吹きそうになったわ……)

もちろん、そんな試合が中断するようなことをやってはいけないが。
魚住のブロックにより弾かれたボールがサイドラインを割るかと思った時、流川がすかさずそれを拾い上げクイックシュート。
しかし、魚住それもブロック。
だが。
そのボールもなんとか安田が拾い、依然湘北ボールのままであった。
安田からさらにローポストの赤木にパスが渡る。
赤木がそのままシュートに向かった。
だがしかし。
魚住の3発目のブロックショットが決まった。

「うおおおおおおおおお!!!!」

魚住の怒涛のプレイに会場が湧き上がる。
特に陵南サイドの盛り上がりは異常だ。

「さあこの試合100点取るぞ!!!」

(言ってくれるなぁ)

最後の魚住のブロックによりアウト・オブ・バウンズしたためボールは湘北ボールで始まりまだ攻めるチャンスが有るはずだが、ボールを持っている安田はすっかり萎縮してしまっている。

「くれ」

流川の声に反応して、安田がパスを出す。

(ダメ!!)

その様子を審判として見ていたは気づいていた。
仙道が、そのボールを狙っていることに。
案の定、仙道は流川の目の前でパスカットをし、

「さあいこーか」
「にゃろう」

と、流川を挑発した。

(バカー!ガードなんだったら周りをよく見ろ!)

安田のガードとしての能力の拙さに不満を感じながらも、陵南ボールになったためは再びトレイルとしてセンターラインに走り抜けた。
流川の戻りも早いが、彼は仙道を止められるだろうか。
後ろからプレイを見守りながらは思う。
仙道がシュート体勢に入り、すかさず流川は跳ぶ。
だが。
仙道は背後の味方にノールックでパスを出し、その味方は誰に止められること無くレイアップを決めた。

(すごいな、あのセンドーって人)

会場も再び大きく盛り上がる。
守備に魚住、攻撃に仙道という起点がいる陵南は、かなり手強いだろうということはこの数分でわかった。

「さあ、ガンガン行こーか」
「おおっ!」
「おう!」
「行くぞ!」

仙道も魚住と同じようにチームに火付け役となって喝を入れる。
さっき遅刻してヘラっと笑っていたのと同じ人物とは思えない。

『実力があるからって、みんなあの人に甘いのよ』

は先程そんなようなことを言っていたが。
はそれだけではない、と思う。
このチームには、監督も含めた全員が仙道への信頼がある。
精神的な支えとでも言うか。
ただ実力があるだけではなれない、エースの器といったものを彼から感じる。
その器に、流川は勝てるだろうか。
は流川をちらりと見つめる。
その時だった。

――ビーーーーー!!

が、の方角を見て笛を鳴らす。

「は?」

今のゴールからまだプレイも再開してないのに一体何だ?
と思い、が指差す方、の背後を振り返る。

桜木が、陵南の顧問にカンチョーをしていた。

「これは、テクニカルファウルでいいの?」

こんな馬鹿げた異常事態なのに、は生真面目にルールに則ってジャッジしようとしてくる。

「……いーんじゃない」

呆れて、モノも言えない。
初めてのファウルは、桜木花道の悪行によって湘北に与えられた。
陵南も、「よくわからないけどフリースローもらえてラッキー」てな感じでちゃっかり入れた。
前半5分、15-0。
先が思いやられるスコアだった。



「仙道!仙道!仙道!」

会場が、仙道コールに包まれる。
仙道が木暮からスティールし、更に流川を出し抜きまたしても味方に土壇場でパスをして味方に決めさせるというスーパープレイをしてみせたからだ。
流川は完全に対応できていなかった。

(あのセンドーって人止めろよ……。めっちゃ疲れるじゃん……)

せっかく定位置についても、攻撃の順番が変わるのでまた審判の定位置が変わる。
今日は何度もそれの繰り返しになりそうだった。

(陵南の速攻とインターセプト。それを支えてるのがあのキャプテンか……)

当然だが、審判というのは選手の次に大変な役割である。
少なくとも一試合は出ずっぱりだし、ルールをよく理解し、かつ10人の選手をよく見て流れを把握しなければならない。
安西は、PGとしてのの素質を見抜き審判を任せた面もあったが、今日はただ単純に、体力面に不安を抱えるに高校バスケの試合時間を選手目線で擬似的に体感してもらいたかった、という考えが多分にある。
審判をまともにこなせば勉強にもなる。特に、のように司令塔としての役割を果たすタイプの選手は。

そして田岡は田岡でやっぱり狙いがあってわざわざを審判に指名したわけだが。

それはまた、別の話である。

流川と仙道。
本日何度目かのマッチアップ。
流川は今度は周りが見えているようだった。
仙道のことをマークしながらも、近くにいる陵南生の警戒も怠らない。
だが、今度は。
仙道は右手でドリブルをしていたボールを流川を抜き去る直前で左手に変える。
そしてそのまま流川を抜き去り、左手で、ダンクを決めた。

「なっ」

おもわずも目を見開いて声を出す。
なんて奴だセンドー。
どーすんだ流川。
は流川を見つめる。

(心配は、いらなそーだね)

その目は、明らかに燃えていた。



 魚住と仙道に触発された赤木と流川のコンビは、その後怒涛の巻き返しを見せた。
流川なんかは仙道の目の前でパスカットして「さあいこーか」なんて言っちゃってみせたりしているのをは聞いた。
相当な負けず嫌いである。

「3秒オーバータイム!」

の笛が響く。
とうとう、赤木が魚住を止めきった瞬間だった。
その後も流川のダンクが炸裂するなどして前半終了。
50-42。
火のついた湘北を止めることは、陵南にも難しいことだった。



ちゃんお疲れ様―!わ、すごい汗!」
「そーだよもーすごい汗だよー。誰かさんがさんざん走らせてくれるせい」

休憩時間、は汗を拭きながら椅子に座る。
の方を見ると、彼女は制服にもかかわらず涼しげな顔をしている。
彦一くん、といった彼にタッパーでレモンのハチミツ漬け的なものを渡しているのが見えた。
彦一はそれを陵南生に振る舞う。



すっと横からドリンクが手渡された。

「お、サンキュ」

流川からだった。
流川のバッグに基本的にの荷物も入れているので、2人には当たり前の行為だった。
だが、

「……どーして、ちゃんのドリンク流川が用意してるの?お弁当とかも、だけど」

藤崎が、当然といえば当然の疑問をとうとう口に出した。

「あ、うーん。なんで、だろうね……」

流石に家出の事は言えない。

「コイツ乗せるとき、おふくろの自転車で、カゴちいせーからオレのとまとめてる」

流川が、ちょっと片言だがテキトーにフォローしてくれた。

「ふーん」

藤崎は興味がなくなったのか納得したのかよくわからない返事をした。

くん、どうですか。審判のお仕事は」
「あ、センセー。結構しんどいっすね、男子。走り回るし」
「ほっほっほ。頑張ってください」
「ウス」

「頑張れよ」

流川も、に声をかける。

「オメーも頑張れ」

選手に気を使われる審判、という図がちょっと恥ずかしくて、は天邪鬼に返した。

後半戦、開始。