「そいつ、オトコ?オンナ?」
「は?そこ重要?」
「オトコ?」

よくわからないところにこだわる流川。



16.いいえ、それはトムです。




 後半戦開始早々、流川が3Pを決めた。
はセンターラインで3本指を高くあげる。

「あいつ外からも打てるのか!!」

敵からも驚きの声が上がる。
とうとう、点差は5点に縮まった。
陵南が、タイムアウトを取った。



「やるじゃん、流川」
「おー」

席に戻って水分補給をしている流川に声をかける。

「ほら、ファンの子達もヒートアップしてる。……あ」

は流川親衛隊の方を指差してからかってやろうとしたが、ふと、すぐ近くにいる赤木晴子が視界に入った。
それ以上何も言わず、も水分補給をした。
その時、にわかに陵南サイドが騒がしくなる。

「ス……スパイだ!敵のスパイがいる!!」

また、桜木花道が騒ぎを起こしているらしかった。
これは長引きそうだ。

「ま、ちょうどいいかも。流川、足見せて」
「む……」
「いいから」

は流川の足をマッサージする。
さっきの休憩の時にやれればよかったのだが、も疲れていた。
しかし後半始まって1分、流川の疲労が既にかなり溜まっていることが、近くで見ていたにはわかった。
時間はあまりないが、何もしないよりはマシだろう。

「ワリィ」
「いいよ、別に」

流川のふくらはぎを揉みほぐす
ガッシリとしていて、しっかりとした筋肉が付いている。
だが、やはり疲労が溜まっているのだろう、少々突っ張ったような感触を感じる。

「……知り合いに、こーゆーの得意な人がいて、見よう見まねだけどね。気持ちいーでしょ?」

昔、よくの世話を焼いてくれた人のことを思い出しながら喋る。

「そいつ、オトコ?オンナ?」
「は?そこ重要?」
「オトコ?」

よくわからないところにこだわる流川。

「女だよ。別に、どっちだっていーじゃん」
「……オレ以外にオメーの世話するオトコがいるのは、ヤダ」

(『ヤダ』って……言われても……)

「さあ!!試合再開だ!!審判!」

田岡の怒号により、騒動の終わりが告げられる。
あまり何もしてやれなかったが仕方がない。後半保つといいが……。

「ねえ流川」
「ん」
「無理すんなよ」
「おう」

二人が席を離れるのと同時に、彩子さんが縄でぐるぐる巻きにした桜木花道をベンチに座らせた。



 試合再開早々、流川と仙道のマッチアップ。

(あ!)

わざと、だ。
わざと、この仙道という人は、桜木の目の前ですさまじいドリブルを見せつけた。
一瞬仙道が桜木の方をちらりと見たのを、は見逃さなかった。
そして、流川を抜いてシュートを決め、また、桜木に対して「かかって来いよ」の挑発ポーズを取った。

「おもしれー!上等だセンドー!オレが倒してやる!!!」

桜木は自力で縄を引き裂き、コートにズカズカと上がる。

「おーし、さあ一本止めようか!」

仙道は桜木を無視してるようにコートに声をかけることで、更に桜木を挑発する。
陵南の選手が怒り心頭の桜木の振る舞いに苛立ったように注意をした。


「バスケを何だと思ってやがる!!」


しかし、

「うるせーなてめーはいちいち!!てめーもブッ倒すぞ小僧!!おお!?」

と火に油を注ぐ展開になってしまった。

「な……なんてマナーの悪い奴だ!!注意しろ審判!」

え、アタシが叱んなきゃいけないの?やだなあ。とが思うよりも早く。
田岡にそう言われる前に、飛び出して注意するものがいた。

「そうですよ仙道さん!!そういう挑発行為はスポーツマンとして感心しません!!」

(バカー!そっちじゃないでしょー!)

の正義感は、「先に挑発した者」に対して振りかざされた。
ヒートアップしている桜木を止めるのはには荷が重かったのに。

「なんだあジジイ!」
「桜木っ!」
「すわってろ!!!」

の声をかき消すように、キャプテン・赤木の怒声が響く。
近くで聞いたも怖かった。
だが、その一喝で、ようやく桜木も多少冷静になったようだった。
おとなしく席に戻る。
ほっとひと安心する

「すまんな、
「イエ」

何もできてなかったし、今。

「悪かったって。でもあいつの勢い、ちょっとさんに似てて面白くね?イノシシみたいでさ」
「な、な、なんですって!!」

陵南側は、まだ揉めてるようだったが。
あの仙道というやつの様子を見るに、迷惑なことに桜木のことを気に入っているようだった。
そして、恐らくあのという人物のことも。

「次変なことしたら仙道さんもテクニカルファウルですからね!」
「はいはい」

ニコニコ受け流す仙道からは、あまり反省の色は見えなかった。



 試合は、荒れ始めた。

「押してる!押してるぞ審判!」

木暮の声にトレイルのが笛を鳴らす。

「プッシング!白(陵南)④番!」
「なに!どこがファウルだ審判!」

魚住はに食って掛かる。

「手が体の間に入ってました!明らかなプッシングです!」

は巨体の魚住に一切臆すること無く説明する。

「惜しい惜しい!ナイスディフェンス魚住さん!」

仙道は、2人を仲裁するように声をかけた。
あの仙道という人物、魚住という選手にも大分信頼をおいているらしい。
多分真っ直ぐで実直な人が好きなのだ、とは思った。



 桜木花道がウォーミングアップを開始した頃、またゴール下が混戦してきた。
ボールを奪わんとする木暮を避ける魚住。
その瞬間、魚住の肘が、誰かに当たるのをは見た。

――ピーーーーー!!!

「オフェンス!!チャージング!!白(陵南)④番!」

試合が中断し、皆が自体を把握した。

「あ!」
「ああ!」
「お兄ちゃん!」

肘がこめかみに直撃したのは、赤木だった。

赤木は

「代わりはお前だ」

と、桜木を指名してコートを去った。



 試合は、桜木花道を投入することにより更に荒れた。



「トラベリング!」

は桜木がいきなり3歩以上歩いたのを見て笛を吹いた。
だが、初試合というプレッシャーからか、すっかりアガりきっている桜木の耳には入っていないようだった。

(ちょっと大丈夫なのかよアイツ!)

見てるこっちがヒヤヒヤする。
その心配は的中した。
桜木花道、シュート体勢に入っている魚住目掛けてボディプレスを炸裂させる。

――ピーーーーー!!!

今度は、リードのがファウルを宣言した。

「オフェンス!チャージング!赤(湘北)⑪番!あなたねぇ!さっきから何考えてるの!?」

は桜木に喰って掛かる。
だが、それすらも桜木の耳には入ってないようだった。

「流川、マジでアイツなんとかしろよ……」

が小声で流川に耳打ちする。
せっかくあんなに練習したのに、このままじゃ審判()の鶴の一声で退場になりかねない。
あの仙道という人がをなだめてるうちは大丈夫だと思うが……。
流川はにコクン、と頷くとそのまま桜木にずんずん近づく。
そして、そのまま尻から桜木を蹴っ飛ばした。

「どあほう。このいつまでもガチガチキンチョーしまくり男」
「ルカワ……!!」

(オイオイオイオイオイ……)

そのまま乱闘を始める2人。
文明人なんだから話し合いで解決しろよ、とは呆れる。
頼んだ人選をミスったか。
だが、その乱闘のおかげで桜木の動きのカタさが取れてきたようだった。

「こっからが本番だよく見てやがれ!!」

桜木の宣戦布告が、体育館中に響き渡った。