「あれがアリなら、こっちだってオマエ出していいだろ」
「アリじゃねぇよ。点になってねぇから」
17.Q(急に)B(ボールが)K(来たので)
意外なことに、桜木はその後活躍をした。
少なくとも、むやみやたらに突っ込んで即退場、という事態は免れそうだった。
昨日の女子との練習が効いてるらしい。
椎名もニコニコ試合を見つめていた。
何度目かの木暮との連携の成功で、桜木はだいぶ調子に乗っている。
このまま調子に乗り続けることができればいいが、そうさせてくれないのが強豪が強豪たる所以だ。
後半残り6分。とうとう、の心配していた事態が起こった。
ずっと仙道をマークし続けていた流川の体力の限界が、訪れたのだ。
「流川!!」
仙道に抜き去られたのと同時に転んでしまった流川。
笛を吹いて一旦試合を止める主審の。
「大丈夫?」
やっぱり、さっきもっとよく揉んでおけばよかった。
足がつっている。
「すぐアイシングしなきゃね」
は流川に言う。
だがその時、桜木がずんずん流川に近づいてきて、
「とう!」
あろうことか、流川のつっている足を蹴った。
「さ、桜木!?何やってんだよ!?」
桜木は流川を見て情けないだとか湘北の看板がどうとかうだうだ言っているのを、安田や木暮に止められている。
だがそれをきっかけとして、流川の闘志が再燃したようだった。
「続けんの?」
「おう」
安西に流川の交代を進言する桜木の尻に、キックする流川。
「誰がバテてるって?」
(なんでこんなに負けず嫌いなんだか……)
意地を張り合う流川と桜木。
流川はそのままボールを持っているに、「交代はナシ。試合再開」と告げた。
桜木はその後リバウンドで活躍を始めた。
だが、それも長く続かなかった。
身体能力に任せてリバウンドを奪えてきたが、それはやはり魚住には通用しなかったのだ。
このまま試合が決まってしまうのか……。
頭にそんな言葉がよぎった時、
「ちが~う!!」
大黒柱・赤木が帰ってきた。
赤木と流川が交代し、2点差まで詰め寄る湘北。
そして……木暮の3Pが決まる。
とうとう、湘北が逆転したのだった。
怒涛のメガネコールが湧き上がる。
だが、それと同時に、
「オッケー」
仙道の雰囲気が変わったことを、は肌で感じ取っていた。
仙道は自分をマークしている桜木をあっさり抜き、なんと、湘北の大黒柱赤木の上からダンクシュートを決めてしまった。
ダンクを決める際、仙道と赤木の手がぶつかり合ってしまった。
これは赤木のファウルである、と判断したは笛を吹く。
「赤(湘北)④番!ハッキング!バスケットカウント!!ワンスロー!!」
そして、そのまま仙道はフリースローを決めて逆転。
湘北の逆転できている時間は、非常に短かった。
「天才だわ……」
そうつぶやいたのはではない。
仙道の活躍を見て、何故か悔しそうに顔を歪めるがそうつぶやいたのだ。
「喜ばないの?アンタのセンパイじゃない」
「私はっ……!」
ギリ、と歯を食いしばりはなにか言いかける。
が、やめて、
「定位置に戻りましょう。あなたがトレイルよ」
とに告げた。
(審判があんなに熱くなって……。一体どうしたのさ……)
そしてもちろん、仙道の活躍を悔しく思っているのはだけではなかった。
「センドーはオレが倒す!」
桜木は大分エキサイトしているようだった。
「コラァ!ちょっと待ていセンドー!!!」
仙道のワンマン速攻に追いつく桜木。
しかし、仙道はあっさりシュートを決める。
桜木は点を許した自分を恥じているようだったが、赤木はそんな桜木を労った。
事実、すごく速かったのだ、桜木は。
あの場面で追いつくなんて、も正直驚いた。
その後も、
「む!!」
「ふぬ!!」
桜木は仙道に喰らいつくが、やはり仙道は止められない。
本人の必死な頑張りはわかる。
むしろ、この桜木のハチャメチャな動きをものともしない仙道のほうがすごいのだ。
陵南の⑧番から仙道にパスが渡る。
その時、奇跡が起きた。
「ふぬ!!」
「!!」
桜木が、持ち前のスピードで、仙道へのパスをカットしたのだ。
これには仙道も驚いたようだ。
サイドラインに向かって跳ねていくボールを追いかける仙道と桜木。
桜木は、ジャンプしてボールに飛びつこうとした。
「危ない!審判にぶつかるぞ!」
そこには、トレイルをすべくセンターラインへと移動をしようとしているがいた。
「さん!」
「!避けろ!危ない!」
その時、
「!!!行けっ!!!」
奇跡が再び起きた。
なんと、審判であるはずのが、サイドラインを割って突っ込んできた桜木を右腕で防ぎつつ、左手でボールをつかみ……。
「はいっ!!!」
――スパッ!
左腕を大きく振って、見事ゴールを決めてしまったのだ。
「ええええええええ!!!???」
「誰だあの女子!?桜木を止めてフックシュートを決めたぞ!?」
「ていうか審判じゃねーのかあの女!!??」
陵南・湘北とともに騒然となる会場。
ついに「行け」と言ってしまった仙道も、そして、その声に言われるがままにシュートを決めてしまったも、ぽかんとしていた。
体育館中の大混乱を止めたのは、
――ピーーーーー!!!
「いや……それ……、アウト・オブ・バウンズでしょ……」
副審・の割りと冷静なツッコミだった。
「も、申し訳ありません!!きゅ、急にボールが来たので……」
顔を真赤にして選手たちに謝る。
「きゅ、急にボールが来たからって……女子が桜木を抑えながらシュートを決めたりは出来ないよなぁ……。普通……」
「ああ……」
木暮と赤木が呆けたように会話をする。
「ごめんさん。オレも変なこと言っちゃって」
「いえ、仙道さんのせいではありません。水を差して申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げる。
自分でも何故こんなことをしたのかわからない、という表情だった。
だが、一旦試合が中断したことにより、メンバーのチェンジが可能になった。
「ラスト2分だろ」
湘北のベンチから、流川が立ち上がる。
はピピッっと笛を吹き、
「メンバーチェンジ!湘北!!」
と宣言する。
「足大丈夫なの?」
が聞くが、流川はそれに答えずと仙道を見ながら、
「あれがアリなら、こっちだってオマエ出していいだろ」
と、とぼけたことを言った
「アリじゃねぇよ。点になってねぇから」
会場中の皆が突然のの行動に騒然となる中、はひとり、冷静だった。
その後、復帰した流川と桜木でダブルチームで仙道を止めたり、桜木人生初のレイアップシュートで逆転をしたりなどしたが。
結局、残り時間3秒で。
陵南の天才・仙道彰に逆転を決められてしまった湘北は。
結局。
87-86で。
敗北してしまった。