「えー!?湘北ってすごくない!?あのちっちゃい子!」
「すごーい!シュートバンバン入るよー」
「ふっふっふ。あの子こそ!湘北の最終兵器サキチィちゃんです!」

ちなみに、秘密兵器はらしい。



19.流川楓15才、ブラジャーよりもっとやばいものを見る。




3on3練習の後、女子は休憩に入った。
はすっかり人気者になってしまったらしく、「バスケはいつから?」「中学どこだったの?」と質問攻めにあっていた。
そして藤崎は、「今日まだやれてないから」と陵南の人に許可をとって、休憩中にルーチンの3P の練習を始めた。
最初はを囲っていたメンバーも、藤崎のあまりのシュート精度の良さに驚く。

「えー!?湘北ってすごくない!?あのちっちゃい子!」
「すごーい!シュートバンバン入るよー」

たしかに、個人の能力はとても「毎年1回戦敗退」という成績を残し続けた弱小校とは思えないだろう。
椎名は自慢気に語った。

「ふっふっふ。あの子こそ!湘北の最終兵器サキチィちゃんです!」
「湘北新入生すごい子ばっかだねー!」

どーなってんのー?という感じで、今度は藤崎の近くに人が集まりだす。
藤崎は、あまり社交的とは言いがたい性格なので少々困っているようだった。

「藤崎さんって中学どこ?」
「……武石中……」

――スパンっ!

また一本シュートが決まる。

「あ!武石中って聞いたことあるよ!確か男子強かったよねー!」

3年生が懐かしむように言った。

「じゃあ、藤崎さんそこでレギュラーだったの?」

そういえば、藤崎の中学の頃ってどんなんだったかあまり聞いてないな、と思い、も耳を傾ける。
藤崎の返答は、意外なものであった。

「ううん。試合に出たこと、一度もない」

――スパンっ!

また一本、シュートが決まる。

「えええええええええ!!??もったいないよー!」
「僕チビだから……」
「いやいや、こんなに上手なのにありえないでしょそれ!」

陵南の3年生にもみくちゃにされて、藤崎はいよいよ困惑気味だった。

「言っちゃ悪いけど武石中って女子そんな強くなかったじゃん!藤崎さん出しときゃよかったのにー!顧問バカだねー」
「そんなこと僕に言われても……」
「でもそれでもバスケやめなかったんだー!えらいねー!」

藤崎が小さいせいだろうか、年齢以上に幼い子に話しかけるような口調で藤崎は話しかけられている。

「うん……。あこがれの人、いたから」

(へー)

あの漫画オタクの藤崎が、そんなことを言い出すとは思わなかったのでは少し驚いた。

「甘酸っぱーい!なにそれ男子、男子!?」
「う、うん……」
「先輩?先輩?」
「う、うん……」

3年女子のパワーに藤崎はすっかり圧されっぱなしだった。

「はいはーい。質問はそこまでー。あとは事務所とおしてねー」

椎名がおちゃらけながらも助け舟を出す。
女子の方は終始こんな感じで、湘北女子の実力を披露しつつも和やかに終わった。
ひとり、

「『朝倉光里』さんか。忘れないようにしないと!」

新入部員の気配を残して。



「ありがとございました。田岡先生」
「赤木君」

夕焼けの中、体育館前で湘北・陵南の生徒が集合する。

「たった1年で見間違えるようなチームになったな。強くなった。それから……」

赤木と田岡が握手をしそれぞれ、最後の「挨拶」をする。
流川も桜木も、仙道に対してぞれぞれ、「らしい挨拶」を行ったようだった。

「そんじゃ、行きますか」

安西がほっほっほっと笑いながら告げる。
藤崎が「ザーボンさん、ドドリアさん」とつぶやいたのを聞き逃さなかった男子は、昔見たアニメを思い出して吹き出したようだった。

「じゃーねーみんなー!また来てねー!」

陵南の女子たちも暖かく送り出してくれる。
長妻は、ペコリ、とに頭を下げた。
も手を振り返す。

「安西先生。ありがとうございました」

田岡が一礼し、湘北バスケ部は陵南高校を去った。

この時、はまだ知らなかった。

今日のこの練習試合で、彼女は自分の運命を大きく変えていく2人の人物に出会っていたことを……。



湘北バスケ部が去った直後。
まだ体育館にいたに、仙道彰は痛む手を抑えながら話しかけた。

「途中から、ずっと女子の方見てたな。彦一寂しがってたぞ」

ちょっと嘘。寂しかったのは多分、オレの主観。と心で付け足す仙道。
は、バスケの話になると途端に仙道に隙を見せなくなる。
普段はからかいたい放題の相手なのだが。

「どう?湘北女子は。やっぱり強敵?」

男子と同じく。
お前のライバルになり得るか?
ここまでは聞かない。きっと、は心を閉ざしてしまうから。
田岡と違って聞き方に成功したらしく、はバスケ関連の質問に珍しく答えた。

「全然」

ありゃ。厳しい評価だ。

「だって、3人ですから」
「だよなあ……」

頑張れ!湘北高校女子バスケ部!



「くそう……。だいたいオヤジがオレを出すのが遅すぎんだよな。もっと早く出してりゃこんなことにはよ……」

桜木花道がぶつくさ言いながら安西先生をタプタプする。

「やめんか!!」

赤木はすかさず注意するが、安西はどこ吹く風。

「ほっほっほ。桜木くん、あわてるでない。これからこれから」

湘北高校バスケ部は、これから夏に向けてどんなふうになっていくのだろうか。
海を臨む踏切の前では、少し熱くなった、春の風が吹いていた。



ところで、またひとり。
今日の練習試合がきっかけである少女の運命が大きく変わっていくことになるのだが、

「あ、あれだけの素質がありながら……!なぜだー!!なぜバスケ部に入らんーっ!!!」

それはやっぱり、別の話。



流川家に帰ってご飯を食べてお風呂に入って。
はリビングのテレビの前でストレッチをしていた。

(今日は安西センセーにもしーちゃんにも死ぬほどこき使われたな……)

だが、普段の練習よりは楽だった。
しばらくして、流川がお風呂から上がってきた。

「あ、流川。マッサージしてあげよっか?」
「頼む」

昼に約束していたことを思い出し、は今度は流川をカーペットに座らせた。
流川も、この体勢なら何も見えなくて大丈夫だと思った。

。残念だったな」
「何が?」

マッサージしてる最中、流川が言ってきた。

「今日のこと」
「?」

負けたのは男子でしょ?とは疑問に思う。
流川はなんの話をしているのかと思い、手を止め、流川を見つめる。

ってやつと、戦えなくて」
「……?どうして?」

よく意味がわからない。
あの田岡とか陵南生ならともかく、なぜ自分が残念がってると思われているのかが、には本気でわからない様子だった。

「どうしてって……お前……」

その時、流川はとても奇妙な顔をした。
悲しんでるような、怒っているような、不思議な顔だった。

――それが、が生まれて初めて他人にされた失望の顔だったと知るのは、随分先のことである。

少し妙な間があったが、はマッサージを再開した。
ここまで徹底的にやれば、明日には引きずらないだろう。
痙攣は癖になりやすいから、ケアが重要なのだ。……と、昔お世話になった彼女が言っていた。

「その女、誰なんだよ」
「従姉妹のオネーサン。……もう会えないけどね」
「ふぅん……。……!!??」
「うわ、なんだよ、急に!」

いきなり流川が飛び引いてしまったので、は蹴られそうになった。

「え!?なに、どしたの?どっか痛かった?」
「イエ、ナンデモナイデス」
「ちょっと、だからなんでそーなるんだよ!?」
「モウ、ダイジョウブデス」
「なんか昼より機械的なんだけど!流川壊れちゃったの!?」



流川は、ノーブラの貧乳という組み合わせの持つ恐ろしさを知らなかったのである。
ふつうの女性だったら胸元がゆるくても谷間程度しか通常は見えないが。
Aカップというひどく残念なの体型では。
あっさりと、乳首が見えてしまうことに……。



「モウネマス。オヤスミナサイ」

少し前のめりになったまま、階段をあがる流川。
何故か上の階からは、廊下ですれ違ったらしい流川のオネーサンの爆笑が響いてきた。

「なんなんだよ……アイツ……」

は、まだ知らない。