「1番!高宮望!趣味はパチンコです!」
「2番!大楠雄二!趣味はパチンコです!」
「3番!野間忠一郎!趣味はパチンコです!」
「全員一緒じゃねーか!」
21.黛さんスカウトキャラバン
男子バスケ部に、見知らぬ人がいた。
いや、見知らないのは新入生だけであり、彼は2年の次期キャプテン、宮城リョータだと名乗った。
「どうして、宮城さんは入院してたの?」
「んーと、ね。喧嘩だよね、喧嘩。なんか3年生に目ぇつけられちゃったみたいで……それで」
藤崎の質問に、椎名は珍しく歯切れ悪く答えた。
だが彼の実力は確かなようで、何があったのかは知らないが、既に仲の悪い桜木花道をバスケで翻弄していた。
その時、体育館の入り口がにわかに騒がしくなる。
「ま、黛さんだ!」
「うわぁ、あれが黛さんか!本当にキレーだなー」
「こんにちは、さん、いらっしゃいますか?」
黛繭華が、体育館に来たからだ。
「おー!あれかぁ、黛さん!美人さんー!」
椎名も黛の美貌に思わずテンションが上がっている。
黛は、相変わらずの営業スマイルで周りの男を虜にしていた。
「黛!こっち!」
が黛に手を振って呼び寄せる。
「えー!あんな不良女が黛さんと知り合いなのかよ!」
「紹介してくんねーかなー」
外野の声がうるさいので、赤木が体育館の入り口を閉めた。
その瞬間、黛豹変。
「んだよテメー。わざわざこんなとこまで呼び出しやがって」
「お、いつものおジョーさまキャラいいの?」
「どーせバスケ部にはバレてんだろーがよ。男子が私の事こーゆー目で見るときゃ大抵怯えてる時だよ」
黛はこちらをビクビク伺っている1年男子の石井を指して言った。
椎名も話には聞いていたが……という感じで目をぱちぱちさせている。
藤崎も表情は変わらないが、多少驚いているようだった。
「まあそーゆーなって。それでも立派なアンタの彼氏候補なんだから」
「は?」
「こっちきて!」
は体育館の角でなにやらやっている桜木軍団に声をかける。
なにやら、全員胸元に数字の書かれた白いバッヂらしきものをつけている。
そして黛の前で整列して、挨拶した。
「1番!高宮望!趣味はパチンコです!」
「2番!大楠雄二!趣味はパチンコです!」
「3番!野間忠一郎!趣味はパチンコです!」
「全員一緒じゃねーか!もっとちゃんと考えてこい!」
すかさずがツッコむ。
そして最後に。
「4番!石井健太郎です!と、特技は、リリアンです!」
マジかよ、知らなかったわ。
突然現れた男たちが自己紹介をしたあと、は黛に言った。
「さ、好きなの選べ」
「はぁ?」
「全員、昨日アタシが教えたアンタの過去にドン引きせず彼氏立候補したモサだよ。この辺で手ぇ打ってさっさと入部しろ」
そう、昨日は部活の途中、部の男子+桜木軍団に「黛繭華がカレシ募集中なので立候補しないか」と聞いて回ったのである。
その代わり、黛の本性がわかるエピソード付きで。
殆どの人は黛の本性を聞いて脱落して、まあ最初から興味のないやつも多少はいたが、とにかくそれでも立候補したのがこの4人だった。
「……テメー昨日秘密にするとかなんとか言ってなかったか?」
「ごめん、それ嘘」
「サイテーだなオイ」
「いーじゃん、どーせ部活やってくうちにバレるんだから。話早いほうがアンタもやりやすいっしょ」
あっけらかんと悪びれもせず言うに舌打ちしながら、「顔だけで選ぶんだったら……コイツ?」と、整列している男たちを少し離れたところでニヤニヤ見つめる水戸洋平のことを指した。
「え?オレ?」
「えーーーー!洋平参加してねーじゃんかよ!」
「ずりーぞ洋平!」
すかさず桜木軍団からブーイング。
まあ、このメンツの中で顔が一番整ってるのは水戸だ、というのは事実だ。
「マユカちゃんなら大歓迎だぜ、オレ」
と、参加してなかった割にいけしゃあしゃあと言ってのける洋平。
「じゃあそれで」
水戸洋平と黛繭華。美男美女カップル成立。
その時、
――スパンっ。
黛の話題に飽きたのか、いつの間にかいつものシュート練を始めていた藤崎の、ボールがゴールに入る小気味よい音が聞こえた。
黛は、落ちたボールの跳ねる様子をしばらく見つめ、
「やっぱいいわ」
と言った。
水戸洋平と黛繭華の美男美女カップル、3秒で破局。
「ぎゃははは!洋平振られてやがる!」
「オメーにマユカちゃんは高嶺の花すぎたんだよ!」
「お前らなんて相手にもされなかったくせに……」
どこからか取り出した紙吹雪をちらしまくる桜木軍団。
石井は諦めたようにとぼとぼ男子の方に帰っていった。
「じゃーどーすんだよ。どーしたら部活はいるんだよ」
作戦失敗を認め、は黛に尋ねる。
「……奇跡でも起きたら、ね」
藤崎の3Pシュートを見ながら黛は言う。
「帰るわ」
黛は荷物を持って体育館の出口に向かう。
「『奇跡』、ねぇ」
は「またくだらねーこと言ってんなコイツ」みたいな口調で言った。
「金曜茶道部ないっしょ?また見学来いよ」
「気が向いたら」
そう言って体育館を出て行く黛は、なんだか先程より元気がないような気がした。
『私にとって、とても大切な人がバスケをやめてしまったの。それはまさに悲劇と言えるとは思えなくて?』
先週の金曜日に黛が言った言葉を思い出す。
もしかしたら、これこそが黛の本音だったのだろうか。
「ちゃーん。たぶんねー、黛ちゃん他に好きな人がいるんだと思うよー」
椎名が、女の勘を働かせて言った。
「あー。アタシも、そうおもった」
その人がバスケを再びやることが、黛にとっての『奇跡』なのかもしれない。
そしたら、黛も部活に入ってくれるんだろうか。
でも、どこの誰とも知らんやつをどうやってバスケに連れ戻せというのだ。
それこそ、『奇跡』である。
「ま、練習すっか」
まだどんちゃん騒ぎをしている桜木軍団を適当に追いやって、女子も練習を始めた。