この世に勉強をする女子高生など存在するわけがないのである!!!!!
22.君は学校に何をしに来ているんだね?
昨日のバスケ部員の記憶では、大変仲が悪かったように思うが。
「今日もやるぜ花道!!」
「オウリョータ君!!」
どんな心境の変化があったのやら。
宮城リョータと桜木花道が肩を組み大変仲良さそうに体育館に現れたのを見て、男子も女子もポカーンとしていた。
「しーちゃん、あの2人何があった……うわ、どーしたしーちゃん」
「抜け殻……」
がキャプテンの椎名に二人の関係の変化の原因を尋ねようとしたところ、湘北バスケ部の元気印である椎名愛梨がなんか目も当てられない状態になっていることに気がついた。
なんか、全体的にしおれていて、オーラが灰色である。
なんか今日やけに静かだなーと思ったら、この人がうるさくなかったせいなのか、とは思う。
「どーしたんだよしーちゃん。なんか顔がへのへのもへじみたいになってるよしーちゃん」
「おかめ納豆みたいだよしーちゃん」
と藤崎は適当なことを言っている。
だが、それくらい、いつもの輝きがない。
しばらくして、椎名は口を開いた。
「今日ね……昼休みに……朝倉さんに……会ってきたんだけどね……」
「朝倉?」
「あれでしょ、陵南の練習試合の時に聞いた、『朝倉光里』……だっけ?」
「ああ」
いまいちピンと来ていなさそうだった藤崎に説明をする。
「で、その朝倉さんがどーしたのさ。どーせ『バスケ部入りません』て言われただけでしょ?」
そんなのもう慣れっこのはずである。
というか、5月にもなって一度もバスケ部に見学にも来ない新入生なんて、ハナっから見込みゼロのつもりで勧誘するしかない。
そんなの、椎名のほうが経験も理解もしてようなものだが。
よっぽどひどい断られ方をしたのだろうか。
その『朝倉光里』に。
「ううん……。確かに断られたけど……朝倉さんいい子だったよ……真面目で……」
「じゃあなんだよ」
「いい加減練習しようよ」
「朝倉さんね……バスケ部入らない理由ね……、なんて言ったと思う……?」
知るか。
藤崎もも最早興味なさげだった。
「朝倉さんね……バスケは今も好きだけど……『勉強に専念したいから、部活は入りません』って……」
「勉強!?」
「……だと……!?」
勉強!
それは、学生の本分である!
というのは、大人が創りだした概念であり、建前である!!
実際、勉強に「本分」と呼べるほど時間を費やす学生が、一体この世に何%といるというのだ!!!
女子高生!!
それは一生で一番遊べる時期である!!
それと同時に、その若さから湧き出る謎の万能感で、トモダチと遊んだり彼氏作ったり先生や親を舐めちゃったりしても許される無敵の存在である!
つまり!!!!
この世に勉強をする女子高生など存在するわけがないのである!!!!!
(少なくとも椎名と藤崎との常識の中では)
「べ、べべべ、勉強!?」
「そーなんだよー!クラスの子に聞いたんだけど、朝倉さん昼休み図書室でいつも勉強してるんだってー!昨日もいなかったのはそのせいなんだってー!!」
「昼休みに勉強って……ソイツ、学校に何しに来てんだよ!?」
勉強である。
ちなみに、今日の昼休み、は屋上でクラスの女子とバレーボールをして過ごした。
屋上の角で寝ている流川を発見し、わざとスパイクを当て爆笑していた。
キレる流川を見て「にげろー!」と言ってはしゃいでいた。
これが正しい女子高生の昼休みの過ごし方である。(・談)
「オイオイオイオイオイオイ、女子高生が勉強て……。しかも受験生じゃなくて新入生が……」
「も~びっくりだよね!私なんか受験生なのに何もしてないしー!ちょっと人生考えなおしちゃったよねー!!」
「それもどうかとおもうけど……」
「いや、でも実際やばくね?勉強て……。『バスケ部汗臭いからやだー』って断られんのはジューブンわかるよ?『それより遊んでたいんでー』とかも。だからって勉強なんかする?フツー?」
には考えられないコトである。
「僕も……部活なかったらゲーセン行くなあ……フツー」
「でしょー?もう私思わず『誘っちゃってすみませんでした』みたいなこと言っちゃったよー」
朝倉光里という人物のストイックさに全員すっかり怯えきっている。
ちなみには中学2年の頃から授業以外で教科書など開いたことがない。
「もーその子やばいから。ベンキョーしすぎてアタマおかしい子だから絶対。他の子誘おう?入ってこられてもどーしていーかわかんないよ」
「会話すべて2進数で喋りそう」
「そーそー」
2進数ってなんだっけ?と思いつつ藤崎に同意する。
「でもねー、朝倉さん、バスケ好きだって言ってたし……。背も高かったし、頭もよさそーだし、強かったらしーでしょ?明日、タケちゃんといっしょに誘い直しに行こうと思ってるんだ……」
このまま諦めるには、あまりにも惜しい逸材だったらしい。
「なんで赤木先輩?」
男女のキャプテン直々に誘えば、心が動くとでも思ったのだろうか?
「タケちゃんて、特進クラスでしょ?『勉強とバスケは両立します!』って、タケちゃんに言ってもらえば説得力あるかなーって!」
ちなみに椎名は両立していない。
「へ?赤木先輩って頭いーの?特進なの?」
「森の人みたいな顔してるのに……」
随分失礼な言い草である。
「そーだよー!タケちゃん頭いーんだよー!さ、とりあえず気持ち切り変えて練習だ!」
「おー」
「おー」
県予選まで、後2週間を切っていた。
翌日、昼休み。
赤木剛憲は椎名愛梨とともに図書室に向かっていた。
赤木としても、3年間共に過ごした椎名が大会にも出られず引退していくのはあまりにも寂しい。
出来る限りの協力をするつもりであった。
だが、
(勧誘など……したことがないな……)
来る者は拒まずとも(桜木花道は例外)、去っていく根性無しなど追った試しのない自分に、勧誘など出来るか不安だった。
椎名は「いるだけでいい」とは言ったが果たして……。
「あ、朝倉さん。勉強中ゴメンネ」
「あら、椎名先輩……でしたっけ」
図書室で、椎名が話しかけた少女は。
身長180はあるかという長身の、髪を2つに束ねたメガネの似合う、賢そうな少女だった。
「えっと、そちらの方は?」
「男バスの部長の赤木剛憲くんです」
「どうも、はじめまして」
「あ、どうも先輩。はじめまして」
とりあえず挨拶をする2人。
「昨日さ、朝倉さん『勉強に専念したいから部活は入らない』って言ったじゃん?ここにいる赤木先輩はね、なんと!バスケ部部長でありながら、特進クラスでも優秀な成績を持つ文武両道のエリートなのです!」
「わー!すごいですねー!そうなんですか!」
そういう風に素直に褒められたり感心すると、少し気恥ずかしくなる。
「ね、ね、タケちゃんもさ。勉強とバスケは両立できるって、思うよね?」
「あ、ああ。朝倉、どうしてもとは言わんが……、バスケ部に入ってみないか?きちんと自分のことを律することができれば、勉強と両立することなど容易い。朝倉は、そういうことが出来るように見えるが……」
しかし、朝倉は少し困ったような表情を浮かべるだけだった。
「朝倉さん、聞いたよ?全中でベスト8だったんだってね。すごいことじゃない!ここで辞めるなんてもったいないよ。……それとも、バスケにはもう飽きちゃった?」
ベスト8か。それは本当にすごい。
「いえ、飽きたりなんかは……。でも、いいんです。私、高校に入ったら勉強に専念するって、親とも約束しましたし。バスケ人生にも、満足しています」
『バスケ人生にも、満足しています』か。
そう言った朝倉の言葉に嘘は無いようだった。
赤木は思う。自分は、満足していないからこそバスケを続けられたのだと。
しかし、椎名は引き下がりそうにもなかった。
「『バスケ人生にも、満足しています』……か。ふっふっふ、その言葉!嘘に変えてやりましょう!朝倉さんちょっと来て!」
「えっ?えっ?」
「朝倉さんに高校バスケの恐ろしさを叩き込んであげる!!」
椎名は訳のわからないことを言いながら朝倉の腕を引っ張って行く。
「タケちゃん朝倉さんの荷物よろしくー!」
「な……」
女子の荷物を勝手に整理するというのには大分抵抗があるが、そのままにしておくわけにもいかず、赤木は朝倉の勉強道具をバッグにしまう。
その時、赤木は、見てしまった。
「な、こ、これは……!」
朝倉光里の、つい最近行われたであろう、小テストの成績を。
「ちょっと、あなた達さっきからうるさいわよ!」
「むぅ、すみません……」
赤木、怒られ損。
椎名は、朝倉を体育館に連れて行ったようだ。
体育館には、いつも昼休みも自主練している藤崎がいた。
「全く、何を考えているんだ椎名は……」
朝倉のバッグを抱えながら椎名の動向を見守る赤木。
「え、えーと、先輩?これは?」
朝倉はボールを持たされて困惑している。
藤崎と椎名は、ゴール下に移動し、朝倉に言った。
「朝倉さん!あなたの荷物はタケちゃんが預かったわ!どーしても返して欲しくば私達を倒して行きなさい!」
「なにっ?」
これでは赤木が一方的な悪者だ。
もちろん、赤木は朝倉に荷物を普通に返す気満々である。
「そして……もしあなたが私達に勝てなかったら……。大人しくバスケ部に入りなさい!」
「えー!?」
朝倉は大分困惑しているようだ。
「どうしましょう……?」という目で赤木を見てくる。
だが、あんなふうにエキサイトしている椎名は赤木でも止めるのが難しい。
「すまないが、1戦だけ付き合ってくれ。勝敗は関係なくバッグは返す」
「は、はあ……」
それで椎名も満足するだろう。
「さあ来なさい朝倉さん!あなたのバスケット人生に後悔を残させてあげる!」
「来い!」
藤崎も椎名につられてノリノリのようだった。
「……それじゃあ、1戦だけ」
そう言って朝倉は、目つきを変えた。
(!?)
勝負は、一瞬だった。
藤崎のディフェンスをものともしない、強引なペネトレイト。
朝倉のパワーに圧倒された藤崎は転がってしまい、あっさり抜かれたのだ。
続いて、ゴール下にいる椎名との直接対決。
椎名のブロックを軽々と超えた、両足で踏み切って行われたパワーレイアップ。
ボールは、そのままゴールに入った。
「これで、いいですか?先輩」
朝倉は、呼吸1つ乱さず赤木に尋ねる。
「あ、ああ。すまなかったな。付きあわせて」
バッグを朝倉に返す。
赤木は、驚きが隠せなかった。
椎名は、いや、ついこの間まで中学生だった藤崎だって、女子の中では中堅以上の実力を持っている。
それを、ふたりがかりのディフェンスをこうもあっさり抜くとは。
これは、椎名でなくとも欲しいと思う逸材だろう。
もし、女子の中で彼女に勝てるとしたら……。
(は……いないのか……)
。
彼女くらいのものだろう。
その時ちょうど、昼休みの終わり5分前を告げる予鈴がなった。
「あ!大変!4限の数学の復習まだ終わってなかったのに。それじゃあ先輩、失礼します!」
朝倉光里は、丁寧にペコリと頭を下げて体育館を去っていった。
「だ、大丈夫か……」
朝倉にあっさりと負けてしまって、呆然としている椎名と藤崎に声をかける。
「た、タケちゃん……」
「ああ……」
「す、すごいでしょ!?すごいでしょ朝倉さん!絶対入部して欲しーよー!!!」
椎名は小さい子供のように駄々をこね始めた。
確かに、確かに朝倉の実力は本物だった。
入部したら、一体どれだけの戦力になるか。
だが、
「朝倉は入部しない。お前は負けたんだ、椎名」
「……う、……うえーん!!」
子どものように泣き、藤崎と慰め合う椎名。
赤木だって、意地悪したくてこんなことを言っているのではない。
ただ、赤木は見てしまったのだ。
図書室で、朝倉の成績を。
『じゅ、15点?』
小テストにしても、これはひどい。
赤木を注意しに来た司書も、朝倉のことを知っているのかため息を吐いた。
『朝倉さんね……。努力はしているんでしょうけど、決定的にそそっかしいのよね……。解答欄間違えたり、テスト範囲間違えたり。だから成績がね……良くないのよ……』
『は、はあ……』
そりゃあ、親も、本人も、勉強に専念したがるわけである。
一方、その頃の。
「見てみて流川ー!水鉄砲!」
流川に水鉄砲をぶっかける。
「オメー……本当にいい加減にしろよ……」
桜木軍団と、屋上で水鉄砲で遊んでいた。