朝倉光里が練習に参加して2日、とうとう、この日が来た。
5月19日。
全国高等学校バスケットボール選手権大会神奈川県予選 、1回戦目の日である。
29.5月19日
その日、は朝から絶体絶命のピンチを迎えていた。
「ね、ねぇ流川?スピード出過ぎじゃない?」
2人で乗る自転車の運転者、流川楓が異様なスピードを維持するからである。
流石に怖くなって話しかけるが、反応がない。
(こ、こいつ、寝てやがる!!)
なんて奴だ。
前に車が見える。
「う、ウソだろオイ!ちょっと!」
はとりあえず自分だけは助かろうと自転車から飛び引いた。
あばよ、流川。お前のことは忘れない。
尻餅をついたがは無事だった。
「あ」
流川は、そのまま停車してる車の後ろに突っ込んだ。
前に吹っ飛ぶことでようやく目を覚ます流川楓。
割と大惨事である。
「……マズイ。……早く行くか」
(げ。ピンピンしてやがる)
車の凹み具合の方を気にする流川。
2人は、その車の持ち主が現れる前に早々に立ち去った。
「流川の自転車ジョーブだね」
「おー」
会場には、既に顧問の鈴木、3年の赤木、木暮、椎名、そして、監督の安西がいた。
「オハヨーゴザイマース」
「ウス」
「おはよう2人とも!とうとうこの日が来ちゃったね!緊張してない?」
椎名は新入生2人に質問をする。
「全然」
「あんまり?」
「おーおー、頼もしーねー!」
流川はもとよりそういう性格だし、も、あまり緊張はしていなかった。
むしろ、さっき自転車で車に突っ込みそうになった時のほうが緊張した。
しばらく待っていると、男子も女子も部員が集まってきた。
両キャプテンがそれぞれ集合をかけ、本日の動きの確認をする。
「つーか5人で選手登録おっけーなの?誰か退場とかしたらどーなんの?」
黛が、割と今更な質問をした。
でも、確かにも知らなかった。
「なんかねー、ルール上は3人までは試合続けていいらしいよ」
しっかり調べていたのだろう。
椎名がすかさず答える。
「マジで?てゆーかこんなルールあること事態知らなかったわ」
「限界集落級の弱小校にでも入らない限りまず気にしないルールだからね」
は思わず呆れて「アンタが言うな」と言ってしまった。
「まあとりあえず、しょうほくー!サバーイブ!」
椎名がいつものように妙な掛け声を出した。
「朝倉さんもありがとね!今日は頑張ろうね!」
「はい、お役に立てるかわかりませんが、精一杯やらせていただきます!」
「うんうん、気合入ってるね!」
朝倉は、今回限りの助っ人にも関わらず気力は充実しているようだった。
朝倉に正式入部する気を起こさせるためにも、女子は勝ち進まなくてはならない。
「よーし、じゃ、会場入りしますかー!女子は最初、男子の見学でーす!」
男子緒戦は、三浦台高校だった。
最初、喧嘩した罰として桜木、流川、宮城、三井は仲良くベンチ入りしていたようだが、湘北が劣勢になったのと反省が認められたのがあって、とうとうコートにこの4人が入った。
そこからは……もう、怒涛の展開だった。
今年の湘北は強い。
会場中の誰もに知らしめる事になった。
「あ、あそこにいるの陵南の人だね!見に来てくれたんだ!」
「陵南とはブロック違ったっけ?男子」
「うん、そうだよ。陵南シードだしね!ウチがこのブロックで当たるシードは……」
椎名が男子の対戦表を確認する。
「翔陽高校!だね!」
「えっ……翔陽……!?」
が、その名にギクリと反応をする。
がライバル校の研究、ましてや男子のをするタイプに見えなかったので、椎名はその反応を意外に思う。
「どしたの、ちゃん。翔陽だと何かあるの?」
「うーん、何か、ある、なぁ……」
非常に歯切れの悪い態度を見せる。
椎名が何かを言いかけたとき、朝倉が割って入った。
「そういえば、女子は緒戦、どちらですか?」
「あ、えっとね……室町高校、だね。昨年ベスト8!」
「鎌倉にあるのに、室町……」
それまで会話に入ってこなかった藤崎が細かいことにツッコミを入れた。
「それ年間400回くらい言われてるらしいよー!」
「どこ調べだよ」
1日1回は言われている計算である。
そんな風に女子がおしゃべりをしている最中、
「あ」
「あ!」
「あーあ」
桜木花道が、相手の頭にダンクをかまして退場した。
それはそれ、これはこれとして。
湘北高校男子バスケ部、114-51という戦績で1回戦突破である。
「男子のみんな、お疲れ様ー!よーし、次は女子だね!」
昼休憩の時間、再び男女で集合した湘北高校。
各自昼食を取るなりして過ごしていた。
しばらくして椎名と黛と藤崎は近くのコンビニにデザートを買いに行ったようだった。
女子が2人だけになってしまったので、なんとなくは朝倉光里の座っているベンチに移動したが、朝倉は参考書を読んで勉強を始めたので、は手持ち無沙汰になってしまった。
が空になった弁当箱を流川に返しに行くか、と思って立ち上がった時ちょうど流川もこちらに向かってきた。
流川はの方にやってきて、拳をつき出した。
はそれに自分の拳をコツン、と当てた。
「オツカレ」
は、まずは午前中の男子の活躍を労った。
すると流川は、
「おー。勝てよ」
「ん」
彼なりの激励だろう。
わざわざこんな風に励ましてくれるとは思わなかったので、は少しびっくりしていた。
集合時間になり、会場内で椎名が女子を集合させる。
「それでは!おほん、本日のスターティングメンバーを発表します!」
「は?」
「しーちゃん、僕達5人だよ?」
「いーのー!こういうのはフインキってやつが大事なのー!安西先生、お願いします!」
黛と藤崎が水を差したが、安西は苦笑いを浮かべつつ、本日のスタメンを発表した。
「4番、センター、椎名くん」
「はい!」
彩子がゼッケンを椎名に渡す。
「6番、パワーフォワード、朝倉くん」
「はい」
彩子がゼッケンを朝倉に渡す。
「7番、ポイントガード、くん」
「おっす」
彩子がゼッケンをに渡す。
「9番、スモールフォワード、黛くん」
「はーい」
彩子がゼッケンを黛に渡す。
「14番、シューティングガード、藤崎くん」
「はい」
彩子がゼッケンを藤崎に渡す。
「ぜひ、力を出し切ってください。確かに、君たちは人数が少なく、出会ったのも最近だ。でも、なんだか面白いことを起こしくれそうな気がするんですよ。期待しています」
安西が穏やかに言った。
「お任せください!先生!」
「ほっほっほっ。椎名くんは唯一の三年生だ。決して悔いを残さないように」
「はい!!」
椎名を中心に女子は円陣を組む。
「じゃあ、みんなよろしくね!」
「掛け声何にすんのしーちゃん?」
「決まってるでしょ!しょうほくー!サバーイブ!」
「サバイブ!!!」
5人の、ちょっと照れくさそうな掛け声が廊下に響いた。
湘北史上最強の女子5人、初陣である。