今日の試合は10時から。
湘北VS武里。
その後12時から陵南VS海南。
そして更にその後に……。



50.問1. 仙道彰のデコの面積を求めよ。




「あ!ちゃん!」

9時半、会場にそろそろ入るかと試合の案内を見ていたは、ある少女に呼び止められた。
少女と言ってもより年上だ。
ただ、見た目が幼い。
中学生に、いや、ヘタしたら小学生に間違われるの、と本人もよくこぼすらしい。
陵南高校2年、長妻桜南だった。

「あ、サナさん。おっす」
「久しぶりだね!男子は……明日、戦うね」
「そっすね」

そう、長妻の指摘通り、明日のリーグ最終戦には、陵南VS湘北のカードが待ち受けている。
どこか緊張した面持ちでを見つめる長妻。
そして、

「はじめまして!あたし村上裕子(むらかみ ゆうこ)って言います!サナからよく話は聞いてるよ!すっごい強いんだってね、さん」
「あ、ドウモ」

長妻と一緒にいた、スラっとした背の、かたみつあみの眉毛の凛々しい少女は、爽やかに挨拶をし握手を求めてきた。
これが陵南のエース、「ゆうこりん」こと村上裕子だ、とも気がついた。

「湘北は負けちゃったんだってね。残念だなぁ。あたし戦ってみたかったのに」
「冬があるよ!ね、ちゃん」
「うん、そーなるといいけど……」

湘北女子部、現在部員3名。
ひとり新入部員候補はいるが、それでも4人だ。
未だに試合出場の目処は立っていない。
はちらっと試合の案内が書かれている紙に目をやった。
今日の14時からは女子のリーグ戦が始まる。
陵南VS室町。
一宮VS鎌倉西。

(あ、1回戦で当たったとこ……ベスト4入ったんだ)

そして、陵南と戦うらしい。

「そーいやアタシ全然女子の試合観てねーや。サナさんとこどっすか?」
「こっちは順調だよ!ゆうこりんが大活躍してくれて、先週の鎌西も勝てたし!」

長妻は誇らしげに語った。
その話を受けて、村上は言った。

「あたしが気になるのは、やっぱり一宮の立花さんかな。さんも知ってるでしょ?去年の神奈川の中学生MVPの子」
「や、知らないっす」

一昨年までのことならいざしらず、は去年、中学バスケ界から完全に離れていた。
とりあえず聞き覚えのない名前だった。

「あれ?そーなの?結構雑誌とかでも取り上げられてて有名だよ、立花さん。立花さんというか、そのお兄さんがね……」

村上は立花、という選手について語りだそうとしたが、彼女の視界にはもっと興味が引かれるものが映ったらしい。
急にの後方に大きく手を振って、これまた大きな声で叫んだ。

「あっ!ー!!久しぶ!元気ー!?」
「あ、裕子!?」

村上は叫んだ方に駆け出し、叫ばれた方も村上の方に駆け出した。
丁度中間地点で2人の少女は立ち止まっておしゃべりを始めた。

ー!会いたかったよーぅ!わー!ジンジンも久しぶ!」
「裕子も、元気そうで安心したわ。陵南は男女ともに順調じゃない」
「そーなのよー!男女初のIH出場目指して、ね!がんばってるよー!」

村上が呼び止めたのは、海南のマネージャーだった。
きゃっきゃっと村上ははしゃぎ、はその姿を見て楽しそうに微笑んだ。
そして、

「久しぶりゆうこりん。相変わらずだね」
「だ、誰っすかこの人……」

(あ……!クソザル!)

ちょうどと一緒にいた、同じく海南の神宗一郎と清田信長もこちらにやって来た。
長妻は神ととは初対面では無いようで、ペコっと会釈した。
それを神はペコリと返す。
つられて清田も……と、思いきや、

「あー!てめぇ!じゃねーか!!」

と、やっぱり、長妻のそばにいたに喧嘩を売ってきた。

「ノブ、やめなさい」

すぐにが制す。
村上は「あれ?2人は知り合い?」とと清田を見て言う。

「ゼンゼン」

何でかしらないけど一方的に敵意を持たれているのだ。
まあ、もそんなに動物が得意ではないので、仕方がないといえば仕方がないのかもしれないが。
清田もふんってな感じで腕を組んでふんぞり返りながらを睨みつけている。

「長妻さんも今年はベンチ入り?」
「ううん……ダメだったぁ。2年は私だけだよ……」

長妻は小さい体を更に小さくショボショボとさせた。
神宗一郎とは親子ほどの差があった。
神が長妻と2人で会話するために少し離れたのを見て、村上がの腕をぐいっと引っ張り耳打ちした。

「ねーねー、結局はジンジンと上手く行ってんのー?」

女子高生の3大好物。
スイーツ・イケメン・コイバナである。
だが、それに速攻で反応したのはではなく清田だった。

「ええっ!!ど、どーいうことっすかさん!!『神さんと』って……」

エキサイトしそうになった清田をはすかさず殴った。

「うるさい!大声出すな!裕子も、その話はまた今度ね」
「うふふ~、ごめんねー!じゃあ、あたしたちもそろそろ……」
「そんなー!さん!そんなこと一言も……」
「あれー?知らないんだ、キミ~。はね~、本当はあたしと陵南にいく予定だったのにジンジンがいるからわざわざ……」
「ワーワーワーワー!!!聞きたくない聞きたくない!!」
「裕子!!」

明らかに面白がっている村上と絶望的な表情をした清田。
と長妻と神はその会話に「何の話?」と言う感じでちょっと置いてけぼり感を食らいつつ、とりあえず各々解散した。



 先週に引き続き、会場は人数が多い。
相変わらず早いうちから席を取りに来てくれている椎名のおかげで、最前列に座っている藤崎と黛。
それを見つけたは、その席に向かった。

「オハヨー。今日ってさ、このあと女子の試合もやるらしいよ、見てく?」
「おはよ。室町でしょ?私はいいや」

黛はちょっとご機嫌斜め、という風に言った。
先週は女子の試合が先だったため、見に行くのをすっかり忘れていた。
というか、正直女子バスケ部は見にいってもしかたがないのだが。
なんせ、3人である。
勉強になるとかならない以前の問題なのだ。

「でも相手が陵南なんだよね。サキチィどうする?」
「明日のは、見たい。一宮と陵南のは。優勝候補同士の戦い。今日は多分、その2つが勝つよ」

藤崎はさすがにたちよりは詳しいらしく、神奈川県情勢を軽く教えてくれた。

「ま、とりあえず男子のおーえんだね。あれ?しーちゃんは?」

トイレか何かだと思ったが、それにしても遅い気がする。

「ああ……」

と、黛が呆れたような声を出した。

「桜木のバカが遅刻みたいで、電話かけに行ってんのよ、センパイ」
「えぇ……」

もう、試合始まるぞ。



 武里戦は、危なげなくリードしていった。
しかし、桜木は一体どこで何をしているのか。

(せっかく練習付き合ってやったのに……ばーか)

も、ちょっとつまんない、という顔で試合を眺める。
湘北は、前半10分で赤木を下げてもなお、勢いが止まらなかった。
いいムードで後半戦を迎え、残り5分になった頃。

「あ、」
「桜木!」
「ホントだー!」

桜木花道が、会場に現れた。
すっかり有名人になった桜木に、会場中の注目が集まる。

「このバカタレがァ!!」

赤木の鉄槌が桜木のひどくこざっぱりした頭にくだる。
まあ、そりゃそうだ。
こんな大事なときにどこで何をやっていたのか。
椎名の話では、誰も電話に出なかったらしい。
赤木は桜木と何か会話し、もう一度げんこつをお見舞いした。
だが、その表情はどこか緩んでいた。
結局湘北は、大黒柱赤木を温存し、現在急成長中の桜木花道を出さずに勝利を収めた。
スコアは120-81。
明日の陵南戦を考えるに、なかなか順調な立ち上がりである。

そして、今大会最注目カード。
海南VS陵南が始まる。



「みんなお疲れ様ー!席とっといたよー!」

椎名は観客席に上がってきた男子たちを迎え入れ、席取りのためにおいておいたバッグをおろした。

「どうぞどうぞ、近くで見てね」

と、2列目までを男子に譲り、女子は3列目に移動した。
少し遠くに、陵南の女子達が座っているベンチが見える。
長妻は、小さい体を縮こまらせて、お祈りをしているようだった。
練習を始めた両校に対して、「仙道!」「牧!」「魚住!」「海南!」「陵南!」と様々な応援の声が響く。
その中で、陵南の女子がひとり、すっくと立ち上がる。

「いけー!吉兆ぅー!かましたれー!!」

村上裕子だった。
その声と同じタイミングで、陵南の男子がひとり、仙道からのパスを受けてアリウープを決めた。
どよめく会場。

「あれ、あんな人いたっけ?」

がそれを見て不思議に思う。
まあ、あの練習試合の時の陵南は、男女ともにベストメンバーがそろっていたわけではないらしい、とは聞いたが。

「フクちゃんですよ、あいつは」

桜木が振り向いて教えてくれた。

「フクちゃん」

復唱する梨沙子。
そうか、フクちゃんか。

「……で?」
「えっ?」
「いや、他になんかあるのかと思って……」

桜木、首を傾げる。
も、一緒になって首を傾げる。
別に桜木も、名前以外はよくわかってないらしい。

「で、どいつがセンドーなの?」

黛が会話に割り込んできた。
黛は練習試合の時には入部していなかったので、仙道のことを知らない。

「あの……髪の毛がハリネズミみたいな人。別名、」
「『でこひろし』」

藤崎が続ける。
男子がその妙なあだ名にぷーっと吹き出した。

「確かに、広いわね、でこ」
「問題。『仙道彰のデコの面積を求めよ』」
「ハイハイ!3ヘクタール!」
「しーちゃん正解」

ヨソの学校のエースを何故かいじり倒す女子。

「緊張感を持て、全く……」

赤木も呆れるが、なんのかんのでみんな、楽しそうにしている女子には甘かった。