「海南!」
「陵南!」
「海南!」
「陵南!」

そして、ティップオフ。

「おお!やっぱ魚住だ!!」
「まずは陵南ボールだ!!」

その瞬間、会場の多くの人が早くも異変に気がついた。



51.セクシーガード外伝 すごいよ!!センドーさん




「むっ」

流川もおもわず声を上げる。

――仙道が、牧をマークしている。

陵南は、仙道にPGをやらせる気なのだろうか。
も、―――もともと注目していたが―――仙道と牧の動きに集中した。

(ちょうどいいね、両方見れるのは)

だが、この戦いに注目しているのは、当然だがだけではなさそうだった。
会場中が、このマッチアップの行方を追っている。
先に仕掛けたのは、仙道。

「あぶねぇっ!!」

牧に奪われかけたボールを取りこぼさないようにキャッチする。
そして、牧を超えてループパスを出す。
しかし、牧の背後の魚住ですら届きそうにないくらいボールは高く飛んでいった。

「ああ高すぎる!!」
「パスミスだ!!」

会場がどよめく。

(パスミス……?違う!)

「ダイレクトパスだ!」

は思わず叫ぶ。
なぜなら、会場中の注目が魚住に集まる中、ひとり、ゴール下を走り抜ける選手がいた事に気がついたからだ。
それは、先ほどの練習試合の最後にも見せた連携と、全く一緒だった。

――バッザン。

陵南の⑬番・福田吉兆が、

「なにいい――――――っ!?」
「なんだっ!?」
「うおおおおおっ!!」

仙道のパスからアリウープを決めた。

「うお――――――っ!!」
「アリウープ決めやがった!!」

思わずエキサイトする宮城と三井。
赤木もそのスーパープレイに顔色を変えた。

「桜木……」
「おう!?」
「あの⑬番をよく見てろ!お前の相手になるかもしれん!!」

その後、海南ボールになり、ボックスワンを敷く陵南。

「『勝ちに来た』って感じだね……!王者・海南に!」

椎名がその様子を見て言った。
確かに、陵南は初っ端からかなり仕掛けに来ている。

「こいつらが海南に勝ったら、明日どーなんの?」

黛が椎名に聞く。

「えっとね、得失点差でショーブって感じだね。悪いけど、ウチも陵南も武里戦ではかなり稼がせてもらったから……、陵南に、何点かつけて勝たないと、IHには行けない」

なんとも、行方を追うのがしんどそうな試合だ。



 仙道彰がパスをさばき、残りの4人が決める、というスタイルで戦うことを選択した陵南は、なんと前半10分を過ぎたあたりで王者・海南に対して9点のリードを奪っていた。
タイムアウトを取る海南。
会場は「ひょっとしたら……」という空気に包まれている。

(この視野の広さ……経験だけで身につくもんじゃないな)

「『天才』ってやつか、これが……」

は嘆息する。

「ん?」

その言葉に反応したのか、何故か、女子3人がのことを見てきた。
隣に座っている藤崎に至っては、の顔をバッチリ覗き込んで来る始末。

「な、なに?」
「いや、ちゃんも……」
「そーいうとこ、ある」
「よねぇ~?」

ん?そうか?
はきょとんとした。
まあ、『PGとしての仙道彰』のスタイルはと似たところがあるかもしれない。
『周りを活かす』というやり方は。
も、かつて桜木花道に尋ねられたことがある。
さんて……目が後ろにもついているんですか?』
と。
おそらく、今会場にいる多くの人々も、同じことを仙道彰に思わず尋ねてしまいたくなるだろう。
ちなみに、の視野の広さは、実は『目』ではなく『耳』で支えられている。
ボールマンのドリブルから9人のプレイヤーの出すスキール音。
どんなに応援の騒がしい会場であっても、はそれが拾える。
誰が今、どこで、何を狙って、どんな動きをしているのか。
は、『音』で判断する。
のそれは、天性のものであった。

(でこひろしは……何だろうね)

優れたPGというものは、に限らず、何らかの『ゲームを把握する手段』を持っているものだ。



 タイムアウトが終わる。
流石に牧、王者の意地を見せたか、完全に仙道のことを抜き去る。
更に魚住のブロックをかわすように清田へとパスを出した。

「すごいパスや!!」
「あったり前よっ!!」

清田信長のレイアップシュートが決ま、

――バンッ。

らなかった。
仙道の、ブロックが炸裂したのだった。

「なんだと――――っ!?」

思わず叫ぶ清田。

「守りが固いっ!!」
「すげえっ!!」
「こりゃあもしかすると…………!!」

陵南のパワーを見せつけられて、会場も陵南の勝利を信じるものが増えてくる。
三井も、つい尋ねてしまった。

「……お前ら、本当にこの陵南相手に1点差だったのか……?」

男子、無言。



 後半になり、ますます勢いに乗る陵南。
またしても、仙道―福田の連携から得点を重ねる。
⑬番の福田が見せるゴール下での粘り強さに会場は歓声を上げた。
その後も福田は得点を上げ続け、

「いいぞいいぞ!福田!いいぞいいぞ福田!」
「いいぞーぅ!!吉兆ぅぅぅ!!!」

陵南側でも、村上裕子がエキサイトしてるのが見える。
そういえば、村上は福田の『押しかけ女房』とかなんとか、練習試合の時に聞いた気がする。
だが実際、すごい。

「海南相手に15点差か……。しかもPGの仙道がアシストに徹してる状態で……」

明日の試合のマッチアップは、どうだろうか。
まさか湘北との戦いでもPGに仙道を置くことはあるまい。
クイックネスでは宮城のほうが勝ってるように見える。
あくまでも、牧にぶつけるためのPG・仙道だとは思うが。

(PGの能力を持ってSFをやる仙道に、流川が立ち向かわなきゃいけないのか)

流川に、ちょっと、同情。

(だってるかわ、アタマ悪いんだもん)

観客の一人が、言った。

「いよいよ王者・海南が敗れる日が来たのかもしれん……!!」

その言葉に、何故か桜木花道が反応した。

「コラッじじいっ!!てめえ湘北が陵南より弱いっていいてーのか!?湘北に勝った海南が陵南に負けるってことはだな――――っ!!」
「わー!!こらこら桜木くん!」
「桜木!!やめんかっ!」

椎名と木暮が泡を食って桜木を止める。
しかし、彼はそれでもまだ収まりがつかないようだった。
またしても点数を重ねる福田。
そう、彼は観客に怒っているわけではない。
明日の試合に対し、焦っているのだ。
突然帰る、と発言した桜木を止める赤木と木暮。

「時間はいくらあっても足りねーんだ」

そして、

「コラ―――ッ!じい!!野猿!!手抜きすんな!!オレたちが弱いと思われるじゃねーか!!」

と、コートに叫んだ。
反応したのはサル仲間の清田信長。

「うるせー赤毛ザル!!黙って見てろ!!」

その宣言通り、清田は福田を抜き、魚住の上からダンクをかました。

「王者・海南をなめんなあっ!!」

その一連の流れを見ていて、

(男子って、よくわかんない)

敵同士いがみ合ってるのかと思えば、応援したり、怒ったり。
意味分かんない、と。
まあ、それくらい、ベストメンバーが揃った陵南は、恐ろしい存在だった。

「あんにゃろう……」

そしてここにも、火がついたらしい男子がまたひとり。

「あっ!?おい流川。お前もまさか帰るんじゃ……」

バッグを持って階段をあがる流川を木暮はあわてて止める。
しかし、流川は木暮の予想通り、

「陵南の実力はもーわかった。これ以上見る必要はねーです。おい、行くぞ
「うぃーっす」

は女子に「悪いね」と謝って、わがまま男に付き合うことにした。
そして、三井も、宮城も。
スタスタと会場を出て行く3人に着いていく
男たちは会場を出て何も言わず、学校に向かっていった。

「今日着替え持ってるか?」
「更衣室に予備置いてある」
「付き合え」
「ウッス」

流川はそれだけ言って、スタスタスタスタと三井、宮城と足早に歩く。
気合満点の男の背中である。
すると道中。
まずは、

「4年はいてるからなあ。この靴も……。寿命かな……?」
「三井センパイ物持ちいーっすね」

三井寿の靴紐が切れ。
ちょっと立ち止まっていると、流川楓に黒猫が近づき。

「ちっ。ちっ。ちっ」

宮城リョータは、

「うあっ!?何だコイツ!」

カラスに絡まれていた。
なんか不吉だなーなんては思うが、無神経男の流川は先程の黒猫を抱っこすることに成功したらしい。

「へー、すごいじゃん。流川ネコ好きなの?」
……。遠くね?」

は、黒猫が近づいてきた時点で猛ダッシュで逃走し、10メートルくらい離れた塀の影から顔だけ覗かせ、男たちを見守っていた。

「そんなことないけどお願いだから近づけないでね」
「いや、どう見ても遠い……」
「そんなことないけどお願いだから近づけないでね」

猫を抱きかかえたままの流川楓が近づこうとすると、は同じ分だけ離れた。