「すごい……!」
試合開始直後、桜木花道がいきなり炸裂した。
も思わず驚愕する。
まあ、結果は、
「バスケットインターフェア!!」
だったのだが。
開始5秒で陵南に2点が計上された。
「あいかわらず無茶苦茶ね、桜木くん」
が驚き半分、呆れ半分で言った。
53.伊達じゃないようちの桜木は
陵南は、マンツーマンディフェンスを敷いた。
桜木のアホが浮き足立っているせいで向こうの⑥番にボールを奪われたりしたが、そこはすかさず宮城が奪い返す。
そして、なんだか調子に乗っている桜木は宮城のパスをノーマークで受け、
「な?」
「なに!?」
――バスッ。
ゴール下から、シュートを放った。
「よし」
思わず小さくガッツポーズをする。
「うそ、あの子、練習試合の時はゴール下のシュートなんて出来なかったのに……」
は再び驚く。
まあ、『男子三日会わざれば刮目して見よ』というやつである。
「あら、意外と難しい言葉を知ってるのね、さん」
「うん、最近ベンキョー頑張ってんの」
の言葉に、は少し表情を翳らせた。
「そう……。私も、勉強しなくちゃね。普通の女の子として生きる、勉強」
は、どこか懐かしむように、噛みしめるように目を細めてコートを見ていた。
センター対決は魚住がシュートを外すことで赤木の勝利となった。
桜木が速攻パスを投げるも無茶苦茶なスピードのせいで宮城も追いつけずアウトオブバウンズ。
陵南ボールとなる。
陵南は、福田を主軸においたアイソレーションを仕掛けてきた。
「へえ、でこ……じゃなかった、センドーさんじゃなくて、⑬番で攻めんの?あの人そんなにスゴイんだね」
「私もよく知らないわ。最近部活に来るようになったんだもの、あの人」
⑬番・福田とのマッチアップは桜木である。
桜木は残念ながら抜かれてしまい、福田はゴール下まで詰め寄りシュートを放つ。
だが、すかさず三井がフォローに回っていた。
笛がなる。
「オフェンスチャージ!!」
なかなか気合のこもったいい立ち上がりではないだろうか。
流川はまだ仕掛けないだろうから、はやっぱり桜木を注目する。
が、
「あ」
桜木はよそ見して持っていたボールを⑥番にスティールされていた。
はちょっと泣きたくなった。
まるでお調子者の息子の応援をしに来た母親の心境である。
桜木のミスは同じポジションの宮城の超跳躍ブロックのおかげでカバーされたが、宮城が弾いたボールに喰らいついた桜木。
ボールで、股間を強打した。
凍りつく会場。
青ざめる男子たち。
「あいかわらず無茶苦茶ね、桜木くん」
は血も涙もないのか、うずくまる桜木を見て試合開始直後と同じことを言った。
「何やっとるとらんかァ!!」
一瞬止まりかけた試合。
「だ―――っ!!」
赤木の声のおかげで、最初に正気に戻った三井がボールを拾うことで再開した。
一進一退の攻防が続く。
しかし、異変が訪れた。
魚住の強烈なブロックによって、ふっ飛ばされる赤木。
それ以降、赤木のプレイに精細が欠けるようになったのである。
単純なパスミスをし、シュートも打てずに30秒が経過しターンノーバー。
たしかに魚住のディフェンスも強烈だったが、それでも普段の赤木ならもう少し攻めて板ような気がする。
魚住にバスカンまで計上してしまう赤木。
も思わず眉をひそめる。
「いつものセンパイらしくないな……」
「そうね、練習試合の時のほうが、気迫があったわ」
も赤木の様子に違和感を覚えているようだ。
そうこうしている間に魚住がフリースロを外し、宮城がカウンターのためのパスを出す。
しかし、それをも仙道がカットし、再びフリーの魚住にボールが回る。
(赤木センパイは何してんの?)
は心の中で少し焦ったが、その魚住の絶好のシュートチャンスを阻止するものがいた。
桜木花道である。
魚住の巨体に体をぶつけ、お互いひっくり返ってしまう。
その気迫あふれるプレーに会場は盛り上がる。
魚住はフリースローが得意ではないのか、2本とも外す。
しかし、あっさり赤木のスクリーンを掻い潜った仙道が2本目のシュートをゴールに入れた。
赤木の一連のプレイに違和感を覚えた三井が赤木に掴みかかる。
もヒヤヒヤしながら見守る中、湘北がタイムアウトをとった。
「どうしたの?滅茶苦茶じゃない、あなたの先輩」
も訝しんでいる。
赤木はおそらく、先週のケガを引きずって、思うようにプレイできないのだ。
また、安西不在のプレッシャーも重くのしかかっていることだろう。
がベンチを見た、その時だった。
桜木花道が、赤木剛憲に頭突きをした。
突然の行動に慌てふためく湘北ベンチ。
すかさずげんこつをお見舞いする赤木。
「どうしたのよ、本当に滅茶苦茶ね、あなたのところ」
「……ソーダネ」
も呆れながら見守る。
(でも、)
タイムアウトが終わる。
赤木の歩みに、先ほどのような迷いはなさそうだった。
(大丈夫になったみたいだね、センパイ)
その後、魚住にパワー負けをした桜木が桜木軍団と謎の一幕を繰り広げたりして、桜木のフリースローになった。
例のフォームでフリースローを投げる桜木。
度肝を抜かれる会場。
2投目は流石に外れてしまったが、リバウンドを取ったのは流川だった。
魚住と仙道がすかさずブロックに着こうとする。
が。
(前半は、仕掛けないでしょ?)
流川はゴール下にも関わらず赤木にパスを出した。
流川のオフェンスへの執着心を知っている仙道たちには、いいフェイントになったようだった。
赤木が、ダンクシュートを叩き込んだ。
やはり、調子が戻っている。
その後も⑬番にブロックを炸裂させる。
その様子を見て、陵南はタイムアウトを取ったようだった。
タイムアウトからしばらくして、観客席側にいたも気がついた。
桜木花道が狙われている、と。
陵南は福田と桜木なら福田に分があると判断したらしい。
「よォォ―――し!!」
「いいぞっ福田!!」
得点を重ねる福田にチームメイトが称賛の声をあげる。
(ま、アタシでもそーするかな)
桜木は脅威的な成長を見せているがそれはあくまでもリバウンドやオフェンス面でのこと。
ディフェンスは、シリンダーのことをが叩き込んだおかげで意味不明なファウルはしなくなったが、はっきり言ってそれだけだ。
「可哀想にね、彼」
が冷たく言った。
「狙われてる。勝てると思われてる。下に見られてる……」
そうつぶやいたの唇は、何故か震えていた。
これは……おそらく、桜木花道の話をしているわけではないだろう、とは思った。
また、福田が桜木からゴールを奪った。
会場には福田の活躍にエキサイトする。
「さんは、化け物と戦ったこと、ある?」
は、唐突に尋ねてきた。
「バケモノ?」
「ええ、化け物。……私はあるわ」
多分だけど、ゲームや漫画の話じゃないよね、コレ。とは考える。
『化け物』か。
コートにいる魚住を見た。
サイズ的には間違いなく『化け物』である。
でも、陵南にいる真の『化け物』は……。
は、仙道を見た。
仙道はボールをハイポストまで運び、すかさず福田にパスを出した。
「うわああ―――っ!?」
福田が桜木を押しのけてダンクシュートを決めた。
桜木は着地に失敗し、椅子の方に転がり混んでしまった。
「桜木……!」
「よおおーし!!」
コートでは仙道、魚住、福田がハイタッチをしていた。
それもそうだ、あの桜木を跳ね飛ばしてまでゴールを決めたのだから。
陵南の勢いは止まりそうにない。
「可哀想に」
が、立ち上がり頭から血を流す桜木花道を見て言った。
「実力の差を感じてるでしょうね。力不足を痛感してるでしょうね。彼も……やめてしまうかもしれないわ、バスケを」
(彼『も』、ねえ)
まあ、普通の人だったらそうかもしれない。
自分の実力不足を狙われて、それでも負けじと喰らいついたら完膚なきまでに叩きのめされる、なんて経験をしたら。
「まあ、サンが心配するようなことじゃないよ」
「別に私は心配なんて……」
の声は途中でかき消された。
流川対仙道の対決に湧く会場中の声援によって。
ローポストでの攻防。
ボールマンは流川だ。
流川が仕掛ける、とを除く会場中の誰もが思った時、流川は外角にいた三井にパスを出した。
フリーで受け取った三井、スリーポイントシュートを決める。
桜木の敗北から凍りついたままだった湘北のベンチは、呼吸する方法を思い出したかのように声を出してはしゃいだ。
さすがは中学MVP三井寿である。
前半戦、32-26で終了となる。
「桜木はさ、フツーじゃないよ、色々と。受けた屈辱は絶対に晴らしに戻ってくるよ。男の子だもん」
は彩子に手当を受けている桜木を見ながら言った。
「そう。なら良かったわ」
はあまり『良い』とは思ってなさそうな暗い声で喋った。
「後半見てなって、伊達じゃないようちの桜木は」
は、自分も育てるのに協力をした桜木の活躍を、楽しそうに信じていた。
両チームがコートから出て行く。
コートから去っていく選手たちの背中を見ながら、は思った。
「それにあと1人も、ね」
受けた屈辱を絶対に晴らしてやろうと思っている男が、湘北にはもう1人いるのだ。